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鷗外の子供たち(ちくま文庫)【保護者用】

掲載日:2023/3/31
森類

 家庭や学校が子供たちにとっての、安心できる「心の基地」になってほしい。戻る場所がなく漂流する子供たちもいる。それは、子どもだけでなく、大人にも言える傾向なのかもしれない。

 森類さんは、父親である森鴎外の「人間はなんでもない景色を見て楽しむことを知らなければいけない」という考えを『鴎外の子供たち』(ちくま文庫)で紹介している。

 鴎外は、子どもの類さんといっしょに、平凡な場所でもじっと眺めていたという。 鴎外は、子供たちに添っていた。

 なんでもないことにも、子供のように、楽しみや喜びを感じる。そのような、〈眼差しの優しさと柔らかさ〉が大事なのであろう。その眼差しを大人の私たちが持っていれば、子供たちは安心して家庭や学校を「心の基地」にできるのだろう。

 江戸末期の歌人・国学者である橘曙覧(たちばな あけみ)も、鴎外と同じように、なんでもないものに楽しみを感じることのできる、知足の人だった。

2歳で母と死別。15歳で父を失う。独学で歌人としての精進を続けた。彼の歌を編纂したものに、「独楽吟」52首がある。すべて、「たのしみは」で始まり、「とき」で終わる。正岡子規は「源実朝以来、歌人の名に値するものは橘曙覧ただ一人」と評価している。

「たのしみは三人の児どもすくすくと大きくなれる姿みる時」
「たのしみは朝おきいでゝ昨日まで無(なか)りし花の咲ける見る時」
「たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき」
「たのしみはまれに魚煮て児等皆がうましうましといひて食ふ時」

東洋大学 杉原米和(すぎはらよねかず)
1956年石川県七尾市生まれ。金沢大学教育学部中等国語課程卒業。早稲田大学国語国文学専攻科修了後、京北学園で国語を担当。京北学園白山高等学校副校長、京北幼稚園長、東洋大学京北学園白山高等学校副校長、東洋大学京北中学校副校長を経て、現在は、東洋大学教職センター専門員、井上円了哲学センター客員研究員、江戸川大学非常勤講師として教職志望の学生の指導に携わる。中高教員時代に勤務のかたわら、青山心理臨床教育センターをはじめ7年間カウンセリング研究所で学ぶ。産業カウンセラー、日本カウンセリング学会会員。
いしかわ観光特使、石川県人会常任理事など、石川県の情報発信を教育とともにライフワークにしている。
著書に「関係をはぐくむ教育」(EDI)、「加能作次郎ノート」(武蔵野書房)、「ミリアニア石川の近代文学」(共著・能登印刷出版部)、「白山の丘の上から 生徒と共に生きる」(みくに出版)、「共に揺れる、共に育つー四十年間教壇に立った或る教師の想い」(りょうゆう出版)。
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