トップページ > 推薦図書 > 米百俵(新潮文庫)

この記事は1年以上前の記事のため、内容が古い可能性があります。

米百俵(新潮文庫)

掲載日:2022/9/20
山本有三
「一年の計(はかりごと)は、穀(こく)を樹(う)うるに如(し)くは莫(な)し
十年の計は木を樹うるに如くは莫し
終身の計は人を樹うるに如くは莫し 」(「管子」 *中国古代の政治論の書)
 一年・十年・終身の三つの計画。穀を樹え、木を樹え、人を樹える。
 一年の計画ならば、その年内に収穫のある穀物を植えるのがよい。十年の計画ならば樹木を植えるのがよい。一生涯の計画を考えるならば、人の教育を考えるのがよい。人材育成の大切さを述べている。

 小説家・山本有三(1887~1974)の戯曲に『米百俵』という作品がある。「教育」の原点を考える上で、忘れられない作品である。
 戊辰戦争の後、窮乏のどん底にある長岡藩。そこに見舞の米百俵が届く。その配分を待つ藩士に対し「米を売り学校を作る」という通達が届く。大参事小林虎三郎(1828~1877)は「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵になる」と話す。そして、長岡の坂の上町に、明治三年六月、粗末な学校を建てる。それまでは、昌福寺という禅寺での授業。やがて、それが長岡洋学校、長岡中学、長岡高校へと続く。
 この本には書かれていないが、明治の哲学者、井上円了(1858~1919)は長岡洋学校で学び、東京大学に進む。そして、明治二十年本郷の麟祥院という禅寺で「哲学館」を出発させた。それが後の東洋大学となる。小林虎三郎の精神は、受け継がれていく。
 小林虎三郎は佐久間象山門下で、吉田松陰(虎三郎)と並び称されるほど優秀で「ニ虎」とばれていた。
 目先のことにとらわれてばかりいないで、今の傷みに耐えてこそ明日がある。それが小林虎三郎の考え方である。
 山本有三は、日頃から「人間を作ることより大切な事はない」と考えていた。小林虎三郎の考えに強く共鳴して、この「米百俵」が書かれた。つまり、学校が生まれる理由は、「明日のために人間を作る」ことにあると。

東洋大学 杉原米和(すぎはらよねかず)
1956年石川県七尾市生まれ。金沢大学教育学部中等国語課程卒業。早稲田大学国語国文学専攻科修了後、京北学園で国語を担当。京北学園白山高等学校副校長、京北幼稚園長、東洋大学京北学園白山高等学校副校長、東洋大学京北中学校副校長を経て、現在は、東洋大学教職センター専門員、井上円了哲学センター客員研究員、江戸川大学非常勤講師として教職志望の学生の指導に携わる。中高教員時代に勤務のかたわら、青山心理臨床教育センターをはじめ7年間カウンセリング研究所で学ぶ。産業カウンセラー、日本カウンセリング学会会員。
いしかわ観光特使、石川県人会常任理事など、石川県の情報発信を教育とともにライフワークにしている。
著書に「関係をはぐくむ教育」(EDI)、「加能作次郎ノート」(武蔵野書房)、「ミリアニア石川の近代文学」(共著・能登印刷出版部)、「白山の丘の上から 生徒と共に生きる」(みくに出版)、「共に揺れる、共に育つー四十年間教壇に立った或る教師の想い」(りょうゆう出版)。
次の記事くしゃみおじさん(岩波書店)